自炊した本を、置いたまま読む|ShelfStream · 第01回 / 全9回
自炊した本が持ち出しにくいのはなぜか — 形式・名前・置き場所・共有の4つの分かれ目
この記事の要点
- 自炊ライブラリを持ち出せるかどうかは、ビューアより先に、形式・名前・置き場所・共有方法の4つで決まる。
- 4つは順番に効く。形式が決まらないまま置き場所を変えても、開くまでの待ち時間は消えない。
- 4つ全部を直す必要はない。1冊選んで4項目を書き出せば、次にやることは1つか2つに絞れる。
自炊を何年か続けて蔵書が数百冊になると、その本を持ち歩こうとするたびに「どの巻を端末へ入れるか」を選ぶところから始まります。
全部入れれば容量が足りない。必要なぶんだけ入れれば、読みたくなった巻に限って入っていない。クラウドのアプリで開いてみても、数百MBのファイルを毎回ダウンロードし終わるまで読み始められません。移動中の20分に1話読むつもりが、転送を待つだけで終わる。
蔵書はちゃんと手元にあるのに、持ち出せるのは数冊だけ。この記事は、その詰まりがどこで起きているのかを特定するためのものです。

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この記事について
このシリーズは、アプリの紹介ではありません。扱うのは、どのビューアを使っていても同じように効いてくる4つの判断です。手持ちのファイルとパソコンがあれば今日から実行できる方法を一つずつ扱い、道具が必要になる段階と、必要にならない段階を分けて書きます。
逆に、いま読まなくていい場合
蔵書が端末に全部入る量なら、この4つはまだ効いてきません。 容量に困っていないなら、いまのやり方で問題ありません。
ただし、これからスキャンを始める人にも、4つのうち最初の2つ(形式と名前)は先に決めておく価値があります。後から直すほうが手間だからです。
前提と、扱わないこと
このシリーズは、自分が所有する本を、自分で読むために、自分で電子化したファイルがすでに手元にあることを前提にしています。電子化そのものの是非は扱いません。
著作権法第30条は、複製が許される範囲を「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること」を目的とする場合に限り、かつ「その使用する者が複製すること」を要件としています(文化庁「私的使用目的の複製に係る権利制限について」)。この範囲を超える利用——他人への配布、共有、アップロード——は、このシリーズの前提の外です。
なお、この記事は法律の解釈を提供するものではありません。個別の判断は文化庁の資料か、弁護士にご確認ください。
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数百冊あるのに、持ち出せるのは数冊
自炊を続けていると、ファイルはあっという間に数十GB、数百GBになります。多くの人は NAS や外付けディスク、あるいはクラウドに置いています。
問題が出るのは「読むとき」です。よくあるのはこの3つでしょう。
- 読みたい巻を NAS からパソコンへ落とし、ケーブルかクラウド経由で端末へ入れる
- クラウドのアプリでダウンロードし、別のビューアで開く
- 端末に全部入れておこうとして、容量が足りなくなる
どれも面倒ですが、面倒さの正体はばらばらです。そしてここを取り違えると、アプリを乗り換えても同じ状態に戻ります。
詰まりはアプリではなく、4つの分かれ目にある
自炊ライブラリが持ち出せるかどうかは、ビューアより先に、次の4つで決まります。
- 形式 — 1ページだけ取り出せるファイルか、全部読み込まないと開けないファイルか
- 名前 — 棚に並ぶ順は、アプリの機能ではなくファイル名で決まる
- 置き場所 — 端末・NAS・クラウドで、容量以外に何が変わるか
- 共有方法 — 家の外から読むときにだけ必要になる判断
この4つが揃っていない状態でビューアを変えても、変わるのは操作感だけです。逆に4つを揃えれば、いま使っているアプリのままでも状況はかなり改善します。
揃うと、どうなるか
言葉だけだと分かりにくいので、行き先を1枚だけ見せます。

クラウドに置いたままの自炊ファイルです。端末にはコピーされていません。88MB の巻でも、右の再生ボタンでその場から読み始められます。画面の作品は『ブラックジャックによろしく』(佐藤秀峰)。著作権者の許諾に基づき使用しています。
端末の容量を使わず、コピー作業もなく、置いた場所から直接読む。これが行き先です。
たどり着けるかどうかは、アプリを入れる前の4つの判断で決まります。そこが揃っていないと、どのアプリを入れても同じところへは行けません。
以下、それぞれを1行ずつ見ていきます。詳しくは、続く記事で1つずつ扱います。
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① 形式 — 1ページだけ読めるか、全部読まないと開けないか
ここがいちばん誤解されています。「対応形式が多いアプリ=快適」ではありません。
ZIP(および中身が同じ CBZ)は、ファイルの末尾に「中身の目次」を持っています。 ZIP の仕様書には、書庫の末尾に必ず目次のレコードが置かれること、そしてその目次が各ファイルの先頭位置を保持することが定められています(PKWARE APPNOTE.TXT §4.3.6 / §4.3.16 / §4.4.16)。
つまり、末尾の目次だけ読めば「3ページ目はここから始まる」が分かり、そこだけ取り出せる構造になっています。
もう一つ揃うと効いてきます。HTTP には「ファイルのこの範囲だけください」と要求する仕組み(Range リクエスト)があり、対応しているサーバーは要求された範囲だけを返します(RFC 9110 §14)。
この2つが組み合わさると、500MB のファイルでも、いま開いているページの前後だけを取りに行けば読み始められます。
一方で、他の形式がどう扱われるかは使うビューア次第です。ファイル全体を取得してから表示するものもあります。これは形式の善し悪しというより、「自分の環境で実際どうなっているか」を確かめる話です。確かめ方は記事02で扱います。
補足として、私たちが作っている ShelfStream の場合、ZIP と CBZ はページ単位で先読みし、RAR・CBR・7z・PDF はファイル全体を取得してから表示します。他のアプリがどうかは、それぞれ確認が必要です。
② 名前 — 並ぶ順はファイル名で決まる
ライブラリを開いたら10巻の次に2巻が来ていた、という経験はないでしょうか。
これはアプリのソート設定の問題ではなく、ファイル名の問題であることがほとんどです。並び順を決めているのは名前で、ビューアはそれに従っているだけです。
崩れる原因は主に3つあります。数字のゼロ埋めがない、作品名の表記が揺れている、巻数以外の数字が混ざっている。どれも後から一括で直せますが、直さないまま次の巻をスキャンすると、同じことが繰り返されます。
規則と、まとめて直す手順は記事03で扱います。
③ 置き場所 — 端末・NAS・クラウドで何が変わるか
容量だけで比べると判断を誤ります。実際に効いてくるのは4つの軸です。
容量(何冊置けるか)、通信量(読むたびにどれだけ流れるか)、可用性(家の外や電波の悪い場所で読めるか)、バックアップ(壊れたときに何が失われるか)。
たとえば「クラウドなら容量無制限に近い」は容量の話ですが、通信量と可用性では別の答えになります。蔵書量と、自分がどこで読むかによって、選ぶべきものは変わります。
判断表は記事05で扱います。
④ 共有方法 — 家の外から読むときだけ必要になる判断
NAS を持っている人だけに関係する話です。そして家の中でしか読まないなら、この判断は不要です。
外から読みたくなると、NAS のどの共有方式を有効にするかを決めることになります。ここでの軸は「つながるかどうか」ではなく、通信が暗号化されるかどうかです。
たとえば SFTP が使う SSH は、仕様として強力な暗号化・サーバー認証・完全性保護を提供すると定められています(RFC 4253)。一方 FTP の仕様には暗号化の規定がなく、仕様書自身が「パスワード情報は機微だが、サーバー側にそれを確実に保護する方法があるようには見えない」と述べています(RFC 959)。
NAS をインターネットへ直接公開する前に、まず VPN を検討してください。 ポートを開ける判断は、この記事の範囲を超えます。方式ごとの選び方は記事06で扱います。
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4つは順番に効く
この4つは並列ではありません。上流が決まらないと、下流を決めても戻ってきます。
形式が決まっていないと、置き場所を変えても「開くのが遅い」は解決しません。名前が揃っていないと、どこに置いても並び順は崩れたままです。置き場所が決まっていないのに共有方法だけ考えても、決めようがありません。
ただし、全部を一度に片付ける必要はありません。 自分がどこで詰まっているかが分かれば、打ち手は1つに絞れます。
自分の詰まりを特定する
手持ちのファイルから1冊選んで、次の4つを書き出してみてください。紙でもメモアプリでも構いません。
| 分かれ目 | 確認すること | 詰まっているサイン |
|---|---|---|
| ① 形式 | その本を開いたとき、読み始めるまでに待たされるか | 開く前に進捗バーが最後まで進む |
| ② 名前 | 同じ作品が巻順に並んでいるか | 10の次に2が来る、同じ作品が2つに分かれる |
| ③ 置き場所 | 読みたい巻が「いま手元にある」か | 読む前にコピー作業がいる |
| ④ 共有方法 | 家の外で開けるか | 外では諦めて事前にコピーしている |
4つすべてに印が付く必要はありません。 むしろ1つか2つに絞れたなら、それが次に読むべき記事です。
このシリーズで扱わないこと
- スキャナや裁断機の選び方、スキャン設定(解像度・補正)のチューニング
- 電子化を第三者に依頼する場合の扱い
- DRM のかかった商用電子書籍
- Android・パソコン向けビューアの比較
原本の劣化やスキャン品質そのものの問題は、この4つを揃えても解決しません。そこは別の話として切り分けてください。
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今日やること
手持ちの自炊ファイルから1冊選び、上の表の4項目を書き出す。 それだけです。
所要時間は5分ほどで、アプリは要りません。どこで詰まっているかが分かれば、次に何を直せばいいかが決まります。
続く記事では、この4つを1つずつ扱います。保存形式が後から何を分けるのか、巻順が崩れないファイル名の付け方、蔵書量から決める置き場所、そして家の外から読むための共有方法。どれも手持ちのファイルとパソコンだけで完結する内容です。
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ShelfStream について
ShelfStream は、自炊した漫画・書籍を、クラウドや NAS に置いたまま端末へコピーせずに読む iPhone / iPad 向けのビューアです。ローカルファイルの閲覧、7種類の閲覧スタイル、シリーズ管理・しおり・読書履歴は無料で使え、広告は表示されません。クラウド(iCloud Drive / Google Drive / Dropbox / Box)と NAS(SMB / WebDAV / FTP / SFTP)への接続は Premium(月額100円 / 年額1,000円・7日間の無料トライアル)です。
このシリーズは、自分が所有する本を、自分で読むために、自分で電子化したファイルがすでに手元にあることを前提にしています。著作権法第30条が私的使用目的の複製を認めるのは「その使用する者が複製する」場合に限られ、他人への配布・共有・アップロードはこのシリーズの前提の外です。記事の画面に写っている作品は、著作権者の許諾に基づいて使用しているか、パブリックドメインのものです。NAS の設定やネットワークの安全性を保証するものではないため、自分の環境の設定内容は自分で確認してください。